「勝ち組…」

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“О君”が津波震災の影響により、内定取り消しを受け、田舎に戻って、就職活動をしていた頃…地元の不動産に就職した同級生から“仕事”を紹介されたと言う。 内容は震災当時から増え始めていた空き家物件の調査及び、そこに短期間入居し、借り手がすぐに住める状態を整えておくモノだった。 「今、こんなだしよ?非正規だけど、しばらくすりゃ、俺と同じ正規に なれっから!」 快活に喋る同級の言葉は軽く、非常に信憑性がない。学生時代は特別、 仲が良いと言う訳ではなかった。そして、内容から察するに、これは、 事故物件の後始末と復旧作業を任される汚れ仕事…誰でも良かったのだろう。 しかし、彼には、それを気にする余裕はなかった。 「あの当時、新卒で一発就職できた勝ち組共には俺達底辺の気持ちはわからんだろうけどさ。とにかく何でもいいから働かないとヤバい…そんな焦りと不安が常にあった…」 О君は働く事を決めた。その第1日目の事である。 「お前さ、とりあえず、この家に1時間入ってろ!」 営業車を運転する同級がО君に水と弁当を渡し、住宅地の中の一軒を示す。 時刻は昼間、周りの家と同じ、空き家で就職試験? 意図不明だが断れない。頷き、整地された玄関前に向かう。 「おいっ、最後まで気ぃ抜くなよ?」 同級の言葉を背に、中へ入った。室内は整っており、清潔な感じだ。このまますぐの入居が可能だろう。家全体を周ったが、特に可笑しな所もない。リビングで弁当を食べ、 静寂が支配する家の中で時が過ぎるのを待った。 やがて、携帯の時刻表示が、1時間まで“後5分”という時刻になった時、唐突に“それ”は起こった。 目は開けていた。だから、辺りが真っ暗になった時は驚いた。瞬きをしても、変わらない闇、日中で、家全体が明るいのに、突然の暗転…同級の嫌がらせ? 気が付いたら、夜?全部違う。こんな黒一色の夜は見た事がない。 携帯は反応なし…闇に囲まれた状況で、一気に、恐怖が増した。 多分、叫び声を上げたと思う。気が付けば、営業車の助手席に座っていた。 「すまんなっ、いきなり無理やらせちゃって、でも、仕方ないな。まぁ、こーゆう仕事だからさ、悪いけど“ご縁なし”って事で良いよな?上にも言っとくからさ」 運転する同級は一気に喋り通すと、О君の家の近くで、 放心状態の彼を降ろす。走り去る時、こちらを見た同級は最後にこう言った。 「でもな、俺は出来たぜ…?」 その顔は紛れもない勝ち組の顔だった…(終)
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