たのしみ

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 あと五分、あと五分で私はあの人に食われる。全てなくなる。私がなくなった後残るのは私を食らったあの人だ。ああ、楽しみ。あと五分だというのにそれが待ちきれない。 「楽しそうだね」  話しかけてくれる。私は頷く。それしか動けない。でもこんなに楽しみなんだもの。 「わかってる?」  少し困ったような顔をして聞いてくる。私の置かれている状況を、だろうか。それならもちろん。その上で私は楽しみにしている。 「珍しいね」  そう言われて急に不安になる。もしかして私だけじゃないんだろうか。今までにも何人も? 私が初めてじゃない? そうでなかったら、私は。 「ああ、へぇ」  面白そうに笑う。私の考えていることを少し読んだのだろう。 「大丈夫、その不安まで全部、食べてあげる」  そう、それなら。考えることをやめる。私が今考えていたいことは、この人に食われること、ただそれだけ。それだけをずっと楽しみに。待っていた。 「もうそろそろ時間だね」  どこまで私の意識は残るのだろう。 「じゃあ、いただきます」
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