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「そのことは言うなってアタシに言ったの、智じゃん。なにかあった?」
智は音もなくコーヒーを飲む。
よく見たら、彼のデスクにはもうひとつマグカップが置いてあった。あれ、もしかしてアタシに作ってきてくれたのか。
「昨日、父さんがまた会ってた。お前んとこのと」
「……は。そっか、それであんなに怒ってたのか」
アタシとおかーさんは母娘だから似てるんだ、という自分の発言を反省した。
そんなことを知った智には猛毒のような言葉だったに違いない。
「父さんがなにをしようと知らないって思ってはいるけど。なにも知らない母さんを裏切ってるんだってわからされると、むしゃくしゃする」
「……」
男親と女親の感覚の違いに驚いた。
同じように考えたら、たしかにアタシもおとーさんのことを不憫に思うが、腹が立つかと言われたらよくわからない。
想像でしかないが、逆ならたしかにおとーさんを責めたくなるかも知れない。
男も女も裏切りの意味や重さなんて同じはずなのに、変なの。
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