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「ごめん、へんなこと言って」
「いや……うん、そうか。そりゃ、なんか損した気分にもなるよな」
「あんたが話のわかる男で助かったよ……」
「いや、傷ついてるやつに否定をぶつけてもなって」
「なんか、あんたって変わってるよね。いつもはふつうなんだけど、ときどきびっくりするくらい繊細っていうか」
「思慮深くありたいとは思ってるけど。繊細っていうのかね、これ」
智はあまり興味なさそうに言うが、結局のところやさしい人間だと思う。
繊細なやさしさを持たない人間が、親の目を盗んでこうして幼なじみの悩みを聞きに来るもんだろうか。
アタシならその行動を選ぶどころか、親しい人間に悩みがあることさえ気づかないと思う。
そのとき、表でガタンと小さな音がした。智とふたり同時に顔を上げ、見合わせる。
「なんの音だ?」
「わかんない。今日はおとーさん帰ってこないって聞いたけど」
「泥棒?」
「まさか。こわいこと言うのやめてよ」
智は眉根をぎゅっと寄せ立ち上がると、まだ入っているコーヒー缶をアタシに押しつける。
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