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「さ、智?」
「ちょっと待ってて。見てくる」
なにも思わなかったのに智が物騒なことを言ったから、指先が冷たくなってくる。
「やめなよ、こわいよ」
「覗くだけだから。おかしいと思ったら警察でも呼んで」
「友達じゃないのに、そんな気軽に呼べないよ」
言ってる間に、智は生垣の脇をするする通って表に向かおうとする。
薄暗い場所にひとり取り残されるのも怖くて、缶をふたつ抱え智の後を追った。
「バカ。待ってろって」
「やだ。こわい」
急に春の夜の寒さまで感じてきて、言いながらふるえた。智はアタシを振り返り、「しょうがないな」と小さくため息をつく。
「変なやついたらとりあえず逃げろよ」
「ん」
声を出すのもためらってしまうような緊張感の中、慎重な智は足音を立てずに表に回り込んだ。
うちの表には、玄関外の門扉とは別に駐車場のシャッターがある。
駐車場は家の中から直接行けるようになっているが、外からはシャッターとその横の小さな扉が閉まっていると入れない。
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