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アタシは両手をふさぐ缶をとりあえずキッチンのテーブルに置き、智の陰になるように移動した。
玄関が見えたところで、智の足がふと止まった。
「……おい。駐車場のドア、開いてる」
「えっ」
言う通り玄関脇のドアは少しだけ開いていて、そこから細く光が漏れていた。
智はそこにあった雑誌を手に取り、ぎゅむっと丸めた。虫じゃあるまいし、そんなの武器になるんだろうか。
血の気が引いたところで、駐車場のほうからボソボソとなにか話す声が聞こえてきた。
立ち止まり耳をそばだてると、どうやらおかーさんの声だった。
「……なんだ、びっくりした」
「待て、……いっしょにいるのって」
思わずふたりで声をひそめて話してしまう。
駐車場の中で、ふたつの声がしっとりとささやき合っているのがわかった。
智とアタシはおそるおそるドアに近づき、死角を探りながら隙間をのぞき込む。
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