やさしくなりたい

19/99
前へ
/99ページ
次へ
   アタシは両手をふさぐ缶をとりあえずキッチンのテーブルに置き、智の陰になるように移動した。  玄関が見えたところで、智の足がふと止まった。 「……おい。駐車場のドア、開いてる」 「えっ」  言う通り玄関脇のドアは少しだけ開いていて、そこから細く光が漏れていた。  智はそこにあった雑誌を手に取り、ぎゅむっと丸めた。虫じゃあるまいし、そんなの武器になるんだろうか。  血の気が引いたところで、駐車場のほうからボソボソとなにか話す声が聞こえてきた。  立ち止まり耳をそばだてると、どうやらおかーさんの声だった。 「……なんだ、びっくりした」 「待て、……いっしょにいるのって」  思わずふたりで声をひそめて話してしまう。  駐車場の中で、ふたつの声がしっとりとささやき合っているのがわかった。  智とアタシはおそるおそるドアに近づき、死角を探りながら隙間をのぞき込む。 .
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

319人が本棚に入れています
本棚に追加