やさしくなりたい

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   もう家の中なのに、外の夜気はそのままアタシたちについてきたようにまとわりついていた。 「マジかよ……」  一歩先にいる智は吐息だけでそう言い、動かなくなった。アタシは智ごしに、わずかな隙間をこわごわのぞき込む。 「──ッッ!」  息を飲む、ってこういうことだと思った。  うちの駐車場には、古いソファーが捨てられずに置かれている。おとーさんが車の掃除をしているときとか、シャッターを開けっぱなしにして気持ちがいいので乙音とふたり、ソファーの上で遊んだりしていた。  ──そのソファーの上で、おかーさんがよその男の人と抱き合っていた。 「……ッ、え……」  声を漏らしそうになったアタシの口は、振り返った智の大きな手でふさがれる。  アタシを見る智の目ははっきりと傷ついていて、いままさに自分も同じ目をしているのだろうとわかった。  うちのおかーさんがよその男の人と抱き合っていて、アタシが傷つくのはふつうのことだ。智まで傷つく必要はない。  だから、聞かなくともわかってしまった。おかーさんの相手が、だれなのかということ。 .
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