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やりたいだけではなかったらしい彼氏は、アタシの言いつけ通り手をつなぐ以上のことを強く求めてくることはなく、それでもなんだか楽しそうにそばにいてくれていた。
自分勝手な元彼にすり寄ってこられたのは、2学期が始まったころだった。
「凛音、久しぶり~」
こちらは古傷が疼くので、あまり元彼の顔を見たいとは思わない。
それでもどこかにやけた顔で声をかけてきた元彼は、媚びるような目でアタシを見ていた。
「なんか用?」
この男とつき合っていたころの、楽しい気持ちはもう思い出せそうにない。
ホテルに誘われたときよくこんな顔をしていたな、とぼんやり思い返すだけだ。
昇降口のいろんな靴のにおいもあいまって、思い当たった瞬間不愉快になった。
「彼氏できたんだっけ。楽しい?」
「あんたに関係ないと思うけど」
「おいおい、つめてーな」
つき合っていた頃は、このノリを親しみだと思っていた。だがいまはこの距離感のはかれなさをなれなれしいなと思う。
アタシと寝たことがあるからって、いつまでもその距離感でいいわけないじゃん。
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