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元彼と人目を忍ぶようにホテルに行った次の日のことだった。
「お前、バカなの」
汚いものでも見るような冷たい瞳をした智に吐き捨てるように罵られて、バレたことを悟る。
「……なんのこと」
「とぼけるな。お前あんだけ泣かされたくせに、また」
叱られるのを回避したくていちおうすっとぼけてみたが、無駄だった。
「なんで。なんで智が知ってるの」
「今日、体育の授業でいっしょだったんだよ。あいつ、更衣室で友達にニヤニヤしながら嬉しそうに話してた。元カノとやっちゃった、って」
「うわー……本気でバカなんだ……」
昇降口なんかで露骨に誘ってきた元彼とは違い、智は家の最寄りの駅の改札を出たところでアタシを待っていた。
住宅街にさしかかったひとけのない道端で、アタシにだけ聴こえる声で詰ってくる智は、まともな人だなあと思った。
どうせ好きになるなら、こういう人のほうがいいはずなのに。
なんでアタシは、あんなしょーもない男と深い仲になってしまったのだろう。
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