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元彼に誘いを受けた瞬間、最低だと思ったと同時にアタシの中にべつの欲望がわいてきたのだ。
元彼はアタシを振ったが、いまの彼女が許さないことをアタシが許せば、あのとき味わった挫折感のようなものを少しは埋め合わせできるんじゃないか、なんて。
理屈でそう計算したわけじゃない。だが突き詰めればたぶんそういうことだ。
もともと好きな男と抱き合うことを知らないアタシには、一度関係のあった男ともう一度くらい……なんて大したことじゃない。
学校や大人が教えてくれたような、正しい正しさは、アタシのしんどさを救いはしないのだ。欲望の埋め合わせは欲望でするしかない。
智は信じられないものを見るような目でアタシを見ていた。ほとんどいっしょに育ったアタシたちだが、体の中に渦巻くものはこんなに違う。
智のおとーさんも、アタシのおかーさんも、間違いを犯している。アタシはおかーさんに似ているが、智はきっと違う。
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