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「……お前がそうなるのは、自分のことをそんなふうに投げ出すからだ」
智のかすれた声が、アタシの目の前にぽつんと落ちた。
「俺は、父さんとは違う。けじめもなく関係を作ったりなんてしない」
「そりゃ、智はまじめだもん」
「違う。人間だって動物だ。欲望や本能はちゃんとあるんだ。でも自制できるのが人間なんだよ」
「自制? なにそれ、そんな難しいこと言われても」
「お前がだれと寝ようと、どうでもいいよ。お前がほんとうにそいつと寝たいと思ったならな」
「……」
「違うんだろ。お前、あいつと寝ることでなにか解消しようとしただろ。そういうのはやめろ」
この男、なんでこんなに鋭いんだろう。
自分のくだらなさを見透かされた恥ずかしさよりも、智の見抜く力が怖くなった。
「心がけとか、俺だってそんなの知らないよ。でも、自分の気持ちくらい自分でちゃんとしろ。いい加減であいまいなものに耳を貸すな」
「……わかんないから、やっちゃうんじゃん」
「凛音」
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