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──乙音はたびたび斯波家に行っていた。
いまは亡きチワワに会いに行くためだったが、そういえばあの娘はこの部屋に上がったことがあるのだろうか。いつも庭先で遊んでいたような。
はじめて智の部屋に入ったかも知れないな、と思いながら気だるい空気ごしに天井を見上げた。
足腰が重くて立てない。だがそれがぜんぜん苦痛ではなかった。
智はもう服を着て、コーヒーなんか作ってきて飲んでいる。カーテンを開けないのはまだ裸のアタシがいるせいだろうか。
「ねえ、智。なんで」
智の背中に向かって投げかけるが、返事はなかった。
“当たりついでに、まともな恋人同士がどんなコトするか、俺がついでに教えてやる”
言うとおり、アタシはなんらかのやつ当たりをされたのだろうとは感じた。
でもそれがどうしてなのかはわからない。考える余裕などないくらい、翻弄されてしまったからだ。
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