317人が本棚に入れています
本棚に追加
智はなんの感情も感じられない黒い瞳をアタシに向けた。それにほっとしたなんて言ったら、彼は笑うだろうか。
「幼なじみじゃなきゃ、なんなんだよ。……今日は、ひどい当たりかたして悪かった」
表情は変わらないが、少し沈んだ声がいかにも智だった。
智とのセックスはとてもよかった。
意外に熱くなる肌は心地よかったし、腕の強さも好みだった。アタシたちの間になんのしがらみがなければ、何度でもしてみたいくらいには。
でも、欲望に流されたくはなかった。男と女の欲望に名前をつければ、いつか終わる関係になってしまう。
要するにアタシたちは本気の“間違い”を犯したのだ。親のせいに、周りのせいにして。
明日もそのずっと先も、またこんな間違いをするかはわからない。だが今日限りにしなくてはならない間違いだ。
自分の中でぐるりと理屈をこねくり回しながら、ふとやわらかい髪を思い出す。
「……乙音にはこんなコト言えないな」
ぽつりと漏らすと、智はチッと小さな舌打ちをした。
.
最初のコメントを投稿しよう!