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「ストーリーって、虚構なわけじゃん。現実じゃないっていうか」
「ええっ、そうかなー。お話の中で、登場人物は生きてると思うなあ」
「生きてる?」
「うん。友達とけんかしたり、好きな人とちょっと仲良くなれて嬉しかったり……現実でもそういうのってたくさんあると思うんだけどな」
近頃めっきり大人びてきた乙音の表情に、刹那的な少女の色香が過る。我が妹ながら、ほんのりと匂うような色のある娘だなと思った。
「ふうん……あまり考えたことなかったな、そういうの」
「お姉ちゃんだって、ドラマとか見て泣いてるときあるじゃない」
「あー、あれはなんかね、友達に起きたことを隣で見て聞いてる感じみたいな」
「本もそうだよ。画面に映らないだけ」
にっこりと、きれいな顔で乙音は笑った。
乙音が最近よく手にしているのは“胡桃花音”という作家さんの本だ。
よく知らないが、文庫の棚を横切ると新刊コーナーでいつも推されている気がする。興味のないアタシの目にも入るのは、少女小説家らしい華やかで可愛いペンネームだからなのかも知れない。
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