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「これ! 花音先生の本、いいよ。お姉ちゃんも読んでみて」
「恋愛小説なんでしょ? アタシは向いてないって、そういうの」
「そんなことないと思うな……花音先生の本は、大人でも面白く読めると思うんだけど」
「大人でも? 少女小説なのに」
「うん、花音先生の本は、ほかの本とはちょっと違うと思う。シンプルなのに、きれいで、深くて」
中学生の妹の口から出てくるとはおよそ思えない、どきりとするような言い回しだった。もしかして本って、読んでいると色っぽくなるとかいう副作用でもあるのか。
「人を好きになるって、すごくすごく透明で混じりけがないことなのかなって。そんなこと考えちゃうね」
言っていて照れが生じたのか、乙音はへへっと笑って本で顔を隠した。
なにげない仕草が可愛らしくて、アタシは思わず乙音のところまで行ってその頭を撫でた。
そして、乙音の言葉にちょっとだけ胸が痛んだ。
透明で、混じりけがない気持ち。
アタシ、そんなの感じたことあるだろうか──なんて、ね。
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