やさしくなりたい

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   乙音はほんとうにうちの両親から出てきた生き物なのか、ふしぎでたまらない。  アタシの髪は太くて真っ黒な直毛。おとーさんがそうだからだ。  でも乙音の髪はすぐ風にふわふわさらさらと揺れる。太陽に透けるとちょっと赤い。少女漫画のヒロインみたいな乙音の髪は女の子らしくて、ちょっといいなあなんて思ったりする。  なんでかなあっておばーちゃんに訊いたら、いちばん親の特徴をもらうのは上の子だからねえ、なんて非科学的そうなことを言われた。  それにしたって、おかーさんもそこまでふわふわの髪ってわけじゃないのに。 「こんな午後、すごくしあわせだね」  乙音は急にこっちがドキッとするようなことを言う。  驚いて顔を上げると、とても10歳になったばかりとは思えない大人びた表情の乙音がベランダを臨みながら遠い目をしていた。 「幸せ? なにが?」 .
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