やさしくなりたい

51/99
前へ
/99ページ
次へ
   センター試験を控えたクリスマスの日に、雪ではなく雨が降っていた。  斯波家のおばーちゃんは年明けに入院することが決まっていて、もしかしたらもうあの家に帰ってくることはないのかも知れない、という話が我が家のリビングにも流れてきた。  うちの家族にそういう話を深刻そうに伝えるおかーさんは、いったいなにを考えているのだろうと顔をじっと見てしまう。  斯波家のおばーちゃんは、うちのおかーさんがこっそりつき合っている男性のおかーさんなわけで。  不倫の仲だとしても姑や義母、みたいな感覚ってあるんだろうか。がんばって想像してみたけど、わからなかった。  ふと乙音を見ると、「あの家に帰ってくることはないのかも」という言葉の意味をしっかり理解できているようで、涙ぐんだりなんかしていた。  アタシはなんとも思っていないが、斯波家に足しげく通っていた乙音は違うのかも知れない。  うちはおじーちゃんもおばーちゃんも北陸にいるからなかなか会えないし、乙音が自分のおばーちゃんのように感じていてもふつうのことのような気がした。 .
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

317人が本棚に入れています
本棚に追加