やさしくなりたい

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   雨が降っているとはいえ、斯波家までは徒歩18歩。  乙音は斯波家のクリスマスに参加し、うちの中は静かに感じた。  まだ小さいし細っこいというのに、乙音の存在感は大きいらしい。わが妹ながら、大輪の花のようだものなあ。  しんと静かな家の中、オールドメディアと呼ばれがちなテレビは朝からずっとクリスマスの曲のどれかを流していて、いっしょに明るいタレントの笑い声がやたら響いて聴こえた。  よくあんなに楽しそうにしてられるなあ。  少しうんざりしながら目を落としたスマホにやってくる通知は、浮かれたニュースと交通事故のニュースだけ。  受験のこともあって、彼氏とはデートの約束もしなかった。  夜に電話くらいしてもよかったかなと思うが、彼氏は聞き分けがよすぎてもはやただの友達と化している。  彼氏がどのくらいこの冷めきった空気を直視できているかは知らないが。 .
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