やさしくなりたい

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   智を健全な男子高校生と思っているらしいおかーさんに、こっそり苦笑した。  あいつはかなり大人っぽい男の子だ。  一度だけ部屋に行ったとき、『痴人の愛』というなんだかアブなそうな本があったのを見た。読んだことはないが、きっとタイトル通りの内容なのだろう。 「で、どういう感じなの」 「悪くない……というか、ふつうに面白くてわくわくしちゃってる。10代のとき、こういう恋したかったなあ」 「へえ」  文字がたくさんの本は正直苦手だ。映画とかドラマになったら見てみたい気はするが。 「あなたもたまにはこういうの読んでみたら」 「漫画で読んでるよ」 「漫画と小説は違うでしょ」  ふっと笑って、また本に目を落としたおかーさんの顔にちょっとだけイラっとして、部屋に戻った。  やたら明るいタレントの笑い声もクリスマスの曲も、今日ばかりはなんだか居心地が悪かった。 .
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