やさしくなりたい

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   思春期にさしかかる直前の妹が、どこかから覚えてきた妙な美意識や自意識に酔っているとは思えなかった。  この子は、心と体で感じたことを正直に、素直に口に出しているだけだ。  それがわかるだけに、乙音はアタシには理解できない世界を見、そこで生きているのであろうこともわかる。  両親がそれをどう考えているのか、聞いたことはなかった。聞けばなにかが変わってしまうような気がしていたのかも知れない。  そんな日々の中、智の家のチワワが夏の暑さにやられて死んだ。智が小学生になるときにやってきたそのチワワは、小犬にしても短命だった。  チワワの亡骸を怖がりもせず抱きしめ、乙音は斯波家の庭先でわんわんと泣いた。チワワといっしょに育ったはずの智よりも悲しんでいたかも知れない。  乙音の泣く姿を見ながら、やっぱりアタシは思ったものだ。  この()ほんとどこから来たんだろう、と。 .
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