やさしくなりたい

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  「あ、お姉ちゃん。おかえり!」  乙音はやわらかそうな髪を揺らし、だれよりも早くアタシを見つけた。 「ただいまー」 「おかえり」  ご近所で、いまだにクラスも同じである智はアタシを見てふしぎそうな顔をした。 「お前、俺より早く教室出なかった? いったいなにしてたらこんなに遅くなるんだよ」 「友達とスタバ寄ってた……」 「出た。やたら高い店だ」  智はいやそうに顔を歪める。智の友達だってスタバには行ってるのに、なんでこいつは興味なさそうなんだろう。 「いいな。わたしもそこのコーヒー、飲んでみたい」 「乙音、スタバに置いてあるのはコーヒーだけじゃないよ」  智の背後をのろのろとすり抜け、門扉を開けて中に入る。 「お姉ちゃん、ねえ見て。お母さんのカサブランカ、きれいだよ。今朝はまだ咲いてなかったのに」 「ふーん」  我ながら愛想もなにもない返事だった。  視界の隅で乙音の表情が曇るのがわかったが、妹のためにわざわざ取り返しにいくほどの言葉ではない。だって、アタシが花になんて興味がないことはいまに始まったことではないからだ。 .
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