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気づいたら、教壇に立っていた。
真後ろには大きな黒板があり、右の端に今日の日付と日直の名前が、丁寧に書き記されている。なぜだか知らないが、全ての文字は赤色のチョークが使用され、黒板は見事なまでに真っ赤に染まっている。そこに書かれてある文字を読み取りたくて、よく目を凝らしてみるのだが、殴り書きの文章を理解するには相当の忍耐力が必要そうだ。
すでに夕暮れ時は過ぎ、教室内は薄闇の中に沈んでいる。どこまでいっても静かである。まるで静寂に包まれる異世界に、なにかがきっかけでこの教室が紛れ込んでしまったかのようである。
――誰かがいる。
私はそれを敏感に感じ取り、反射的に教室内のあらゆる個所に視線を投げ飛ばす。
――誰かがいる。
ずらりと並べられた無機質な学習机、椅子、鞄……それらの影に隠れて気配を殺し、こちらの様子を窺っている誰かがいる。
私は得体の知れぬ恐怖に駆られ、喉の奥で叫び声を上げる。しかしその叫び声は私の耳には届かない。
空気が震え、悪寒が身体全体を覆う。そこには一切の光はなく、教室内はどこまでいっても静かである。その静寂の中に身を佇ませ、虚ろな存在を示し続ける誰かがいる。
「誰!? 誰なのよ!」
金切り声を上げ、私は教室の戸口に向かって走る。ここにいたら、私が私でなくなる。そう直感的に理解した。
しかしいくら走っても、扉との距離が一向に縮まらない。永遠の向こう側に扉は設置されているように感じられる。そして、足音が聞こえる。背後からなにか、不気味ななにかが滑るような足取りで近寄ってくる。そいつは唸りに似た笑い声を上げながら、私の背中を追ってくる。
ああ。
ああ……。
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