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二十四分間の恋 2
━━しかし最近、1は少しだけ不安になることがあった。
ある存在が、1の恋心にちょっとだけ暗い影を落としていたのだった。
長針が文字盤の天辺に差し掛かり、0分を告げる。
12の文字に長針がぴったりと重なり、そのまま留まり続けている。
1の不安は、その12に関係していた。
同じ女性である12に、1はある疑念を抱いていた。
すなわち、自分と同じく、12も長針のことが好きなのではないか、という疑念。
その思いが、希望に溢れていた1の胸を少なからず痛ませていたのだった。
長針が0分を指し、細身の体が12に触れている瞬間。
1は目線を上向け、その光景を眺めるようになった。
見たくはないのだが、眺めずにはいられなかった。
長針の表情は、陰となっているために窺えない。
だが、12のことはしっかりと見えていた。見えすぎるほどに確認できていた。
──その表情が、恋の嬉しさに満ちているように感じられるのは、1の気のせいなのだろうか? 恋をしているから、長針を離したくないから、疑わしく思えてしまうのだろうか?──
12は、時計の文字盤では最も大きな数字である。
そのためかはわからないが、12の体型はグラマラスで、1から見ても魅力的な人だった。長針が好きになっても、決しておかしくはない女性で、それが1に言い知れない焦りを覚えさせていた。12を羨ましく思う自分に、悔しささえ感じ始めていた。
一時間に一分。1と長針が重なる、特別な時間。
しかし、それは12と長針も同じことで、二人が一緒になる一分間を1は黙して待っていなければならないことに改めて気づいた。
12と長針、一日に二十四分間の男女の対面、それは自分と同様に行われるのだという事実に、1の胸はキュッと締めつけられる思いだった。
今日も時は進み、長針が12を指していた。長針と12が重なりあっていた。
その一分間の、長さ。切なさ。1には、永遠の時間に感じられていた。
ただ、焦燥を覚えるだけではない。1の胸には確かな決意が生まれていた。
祈るような気持ちで、長針を見上げる瞳。
恋情は言葉となり、口から小さく漏れだしていた。
(……おねがい、わたしの前に。そうしたら、わたし、……)
長針が1の元に来るまで、あと五分。
短いようで、長い時間。
1が勇気を振り絞るには、十分な時間だった。
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