・本章

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「……おい、ポンコツ! いきなり(かが)むんじゃねえ! 危ねえだろうがっ!!」 通りすがりの男の人に膝の辺りを思いきり蹴られ、ボクは『オゴッ』と声を出しますた。身体がよろめき、倒れそうになるのをぐっと堪えます。 ハカセは天才ですたが、同時に、変人でもありますた。 どこのセカイ、どこの時代でも、天才というのは得てしてそういうものである――という言葉はよく聞きますが、そんなハカセの手によってつくられたボクは、時折頭を抱えたくなる時があります。 全長、約7メートル。 一応ヒト型ですが、両の手足や胴体はとても細く、そのフォルムは、まるで骨だけになった、その辺に不法投棄されたカサのようです。 他のロボットと比べてみても、およそ『カッコいい』という言葉からはかけ離れた姿です。 「……どうだ! この細さ、しかもこの高さで二足歩行出来るロボットなんて、ものすごいんだぞ! しかもおまえは、なんと燃料いらず! 辺りに落ちているゴミや太陽光を身体に取り込む事で、それを動力にかえることが出来る! ものすごい技術が搭載されているのだ!」 ――などと言ってハカセはきゃっきゃと騒いでいますたが、この身体、バランスをとるのは大変ですし、こうして地面に落ちていたゴミを拾おうとしただけで邪魔者扱いされますし、踏んだり蹴ったりなのです。 かと言って、他に何かものすごい機能がついているとかいうこともなくて……道を歩くだけで煙たがられるボクに、いったい何が出来るというのだろう、と考え、考え、今までいろいろなことに挑戦してきますたが、どれもことごとく失敗。 このままだと、セカイから『不要なロボット』として認識されて、いずれスクラップにされてしまうかもしれない。……毎日びくびくしながら、そんなボクが、やっとのことで辿りついた『この仕事』を始めてから、はや数週間が経ちますた。 『…………』 ボクは、静かに辺りを見回しますた。気持ちの良い午後です。 青い空。 白い雲。 ――ボクは、きゅい、と目を細めます。 道行く人たちは、みんな1度はボクの姿を見てくれます。 背が高くて目立つから――もちろんそれもあるでしょうけれど、それだけではありません。 みんな、ボクの顔にうつる、『数字』を一瞥していくのです。 「……もう、こんな時間かあ」 横切るヒトが、誰にいうでもなく、そうつぶやきました。 ――人々を静かに見守る、『時計』になる。これは我ながら、良い案だったのではないかと思います。 幸い、ボクには時間を正確に示す機能が備わっていますた。 それに、(先ほどのように時折失敗することもありますが)基本的にはその場に立っているだけなので、誰かの邪魔になることもありません。 時には、鳥たちが休憩のために、頭や肩にとまることもあります。 時には、子どもの遊び場になることもあります。(両手で輪っかをつくって、バスケットゴールのかわりになってあげたりするのです) その度、みんなは、ボクに笑顔を見せてくれます。 そしてその度に――ボクは、とてもとても、あたたかい気持ちになるのですた。
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