・本章

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―――― ―― ――夏が過ぎ。 秋が過ぎ。 それは、冬のある日のことですた。 日々が巡るにつれ、すっかり『街を見守る時計』として受け入れられたボクには、いつしかたくさんの友だちが出来ていますた。 『ガガンボ』とか『デクノボー』とか思い思いにあだ名をつけられ、時には足にラクガキされたりイタズラされたり、からかわれたりすることもありますたが、たくさんのヒトと、一緒に話をしたり、遊んだり……その時の表情はみんな楽しそうで、みんな幸せそうですた。 ……そしてそれは、ボクにとって1番の幸せであり、ボクがずっと望んでいたことです。 でも。それなのに。 ボクの心は、次第に暗く、落ち込んでいったのですた。 「……お待たせ。それじゃあ、行こうか」 時刻は、いつの間にか18時になっていますた。冬の空は重く冷たくて、今にも落ちて来そうです。 ……まるで、ボクのココロをうつしているよう。……ぐわんぐわんと首を振り、ボクは一縷の期待を胸に抱きながら、その声のした方を向きました。 そこに立っていたのは。その声を発したのは――あのヒト。 けれど、その隣に立っているのは、彼女ではなくて、また別の女性(ヒト)。 それを見るのと同時に、じわ、とココロが縮んだ気がしますた。 ……近頃、彼女はこの場所に、めったに来なくなりますた。 「彼、最近忙しくて、あまり会えなくなってしまったんですけれど、今日はしばらくぶりに、会えることになったんです」 ――数日前、久しぶりに顔を見せた彼女は小さな声で、嬉しそうに、けれど少し寂しそうに、そう言っていますた。 でも、その話とは裏腹、あのヒトは毎日この場所に来ていますた。 そして、彼女ではない、別のこの女性(ヒト)と待ち合わせをして、腕を組み、どこかへ行ってしまうのです。 ……これは、きっと『良い』状況ではない。それは、いかに鈍いボクでも分かります。 でも、それを彼女に伝えることは、出来ませんですた。 「……あの女、いちいち面倒くさいんだよ」 その声に、ボクは、びくっとします。あのヒトが、何やらぶつぶつと文句をいっているのが聴こえてきますた。 「良いコちゃん系っていうの? 見た目はいいけど、話してても全然楽しくないし、なんか癪に障るんだよな」 「ふうん。じゃ、あたしは?」 「おまえは、小悪魔系。性格悪いし顔も普通だけど、一緒にいて楽しい」 「ひっどおい」 「冗談だよ。……とにかく、今の俺はおまえにしか興味ないし……何より、『今日の体験』をすれば、いくら馬鹿なあいつでも、気づくだろ。俺に嫌われてるって」 「アホくさ。なんだかんだいって、1番性格悪いのはあんたじゃん」 「はは。いえてる……」 大きな声で楽しそうに会話をしながら、いなくなってしまったふたり。 その会話を聞いて――ボクは、ぎぎ、と首を動かします。 ……今の会話で話していたのは、彼女のこと……でしょうか。 でも、だとしたら、『今日の体験』というのは、いったい、どういうことなのでしょうか。 『あ……うう……』 ……分かりません。 分かりませんが、ボクは、どうしようもなくつらくなって、悲しくなって。 うめき声を上げながら、ただひたすら、頭を振り続けますた。
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