・終章

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――春。 そのあたたかさに身を委ね、いつものようにヒトの波を眺めながらぼんやりと立っていると、突然足がノックされますた。 こつん、こつん、こつん。 顔を動かします。 桜色のスカートをはいた彼女はとても素敵で、その姿を見たボクは、とてもあたたかい気持ちになりますた。 『……これから、どこかお出かけですか?』 ボクが訊くと、彼女は帽子を深く被りなおして、「はい」と笑いますた。 「今日は、とてもいい天気なので、少しお散歩をしようと思っているんです。 ……のっぽさんも、一緒に行きますか?」 『いえ。行きたいですけれど、ボクはここで、みなさんに時刻をしらせる仕事がありますから』 「……では、のっぽさんの分まで、たくさんお散歩してきますね。いつもより、もっと遠くまで」 彼女はそういって、杖の先を地面にこすりながら、ゆっくりと歩き出します。 ――と。彼女は何か思い出したように「あ」とふり返り、なにやらうつむきがちに、もごもごいってきます。 ボクは、ぎぎ、と首をかしげますた。 『……どうしますた?』 「……。実はわたし、方向音痴なんです。 あまり遠くまで行って、帰れなくなったら困るので、やっぱりいつも通り、近場にしておこうかな……と」 ボクは、思わずふきだしそうになりますた。 そんな子どもみたいなことをいう彼女がなんだかとてもかわいくて、愛おしくて。 でも、そんな彼女のことを安心させるため、『……大丈夫ですよ』と、笑ってあげますた。 『――ボクは、この街で1番背の高い時計です。 オジョウサンがどこに行ってしまっても、必ず見つけて、迎えにいきます』 そうして、ボクは彼女の頭を撫でてあげますた。 かつて、ハカセがボクに、してくれたように。
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