空蝉のネバーランド

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 ひとりとひとりじゃなくなるとき、僕たちは線香のにおいがする。  深冬(みふゆ)は今年も橋を渡って、やってきた。去年より一日早くて、一昨年より三日遅い。本当はこっちの橋じゃなくて、役所に近い道の明日成(あすなり)橋を使えと言ってるのに、深冬は毎回、もはや誰も正式な名前なんて忘れてるこのおんぼろ橋を使う。そうなるとしかたないから、結局僕も、雑草だらけでほぼ林といえるここで毎年待っている。唯一の良い点は、周りに生い茂る木々のおかげでできた濃い日陰しかない。 「すずちゃん」  チューリップの花びらから聞こえてきそうな声。深冬は僕の姿を見つけるなり、小走りになって橋を渡りきった。 「終わった?」 「うん。すずちゃんは?」 「うちも」  お決まりの会話。深冬が帰省できるのは、お盆のこの時期だけで、たいてい法要の前日の夜か、当日の早朝に帰ってくる。そして、その法要が終わらないと深冬は外には出られない。 「暑かったでしょ、ごめんね」 「気にするなって去年も言った。ていうか毎年言ってる。夏はなにしてたって暑いだろ」 「ふふ」
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