空蝉のネバーランド

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 後妻におさまった女は、深冬が帰ってくる度にこの小さな手を、心をいたぶる。言葉で殴り、体にも傷をつける。父親も後妻と一緒に深冬を邪魔者扱いして、金だけはあったから電車を何本も乗り継ぐ場所の女子校へ追い払った。本当は、お盆すら帰ってきてほしくないのだ。それでも年に一度、帰省を許すのはひとえに世間体を気にしてのことだと、深冬もわかっている。だから、父親に言うのだ。  お盆に呼んでくれてありがとう、と血の繋がった相手なのに、まるで他人が家族の団欒を邪魔することを詫びるみたいに。 「すずちゃん」  ひと夏しか耳にできない声が、さみしくても好きだ。風鈴の音の違いはわからないけれど、世界で一番透明な音は深冬の声だと知ってる。大切にしたい音。  僕をちゃん付けで呼ぶのは深冬くらいで、今までの十三年がそうだったように、これから先どんな人間と出会っても、僕がこの呼び方を深冬以外に許すことはないだろう。
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