空蝉のネバーランド

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「ふーちゃん、やめて、ふーちゃん……。違うよ、あなたのせいじゃない」  傷だらけじゃない……と膝をついた母が深冬を抱き起こそうとしたが、深冬は顔を上げなかった。  深冬の父親と、僕の父さんはおんぼろ橋から川へ落ちた。老朽化していた橋が崩れたのだ。ただ、なぜ二人があの場所で一緒にいたのか、同じく事故に遭ったのかはわからなかった。僕や深冬と違って、使う人は滅多にいない橋だ。ただ、うちは父も母も他人に何を言われようと深冬を可愛がっていたし、お互いの家を良く思ってはいない。口さがない人間の身勝手な推測話は葬式の影で盛り上がった。  事故か、いや殺しただの殺されただの、蔓延した噂の最後を結ぶのは、総じて同じ言葉だった。 『あの子に関わると、やはり不幸になる』  馬鹿みたいなことを、さも当然とばかりに言う。真実だ、真理だ、必然だと、こんなに折れそうな薄い背中に押しつける。  万が一、彼らの間になにがあったとしても、それは深冬のせいじゃない。  でも、深冬が自分のせいだと感じるにはじゅうぶんだった。萎れた菊の花より力なくふるえて、ごめんなさいと繰り返す深冬。心臓から血を流しているのがわかる。その日、深冬、と何度呼びかけても、丸まった手はほどけなかった。
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