空蝉のネバーランド

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 三ヶ月後の、八月、深冬は帰ってこなかった。  僕は、例年通り深冬が帰ってきそうな日の数日前から、明日成橋を使って深冬の家の近くまで通っていた。毎日、行く前に仏壇の父に「行ってくる」と声をかけて。そうすると飾られた写真の父も、ますます笑みを深くするような気がするのは、たぶん気のせいじゃない。  待ち続けて四日め、今日も違ったかとのろのろと帰宅したら、郵便配達のじいさんと鉢合わせた。いつもの決まった時間よりずっと遅い遭遇に不思議に思いつつ挨拶をすれば、じいさんは僕宛てだと鞄に手を入れる。 「帰る直前に届いてな。本当は明日の配達分になるんだが、まあ通り道だしいいかと思って。ついでだ、ついで」
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