空蝉のネバーランド

17/20

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 ほい、と渡された一通の封筒は白地のシンプルなものだった。裏返しても差出人の名前がない。しかし、僕の名を記す字を見れば誰が書いたかは一目瞭然だ。じいさんに礼を残し、慌てて家に駆け込む。  嫌な予感がした。  スマホを買い与えられていない深冬は、夏を待つ間ときどき手紙を送ってくることはあれど、お盆に入ったこの時期に書いてきたことはない。八月に入ってしまえば、会ったほうが早いからだ。ましてや差出人名を伏せるなんて一度もない。  縁側に腰掛け、封筒の端を慎重に破る。鋏を持ってきて使う時間さえ惜しかった。深冬が好きだと言った風鈴の音が、穏やかな音色なのに鼓動をはやくさせる。  取り出した一枚の便箋の真ん中に、見慣れた字の、短い文章を見つけた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加