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言って、我ながら酷い訊き方になったと内心舌打ちする。傷つけたくないのに。案の定、深冬は力なく目をふせて、口もとに下手くそな笑みを張り付けようとしていた。自分を殴りたくなるのはこういうときだ。
「なんだよ、なに気にしてんの」
深冬がこんなことを言うのは、決まって僕を、僕の家を慮っている故だと容易にわかるのに、いらない一言を言ってしまった数秒前は消せない。
「いいから来いって。母さん、深冬が来るまであのテンション落ち着かねえよ」
物心ついたときから繋ぎ慣れた手を、返事を聞くよりも先に掴んだ。手を引いて、家路へと歩き出す。カーディガンに隠れた腕を引っ張りすぎないよう、気をつけた。いつでも深冬の手は小さくて、柔らかくて、さ迷っていて、ちょっとでも目を離したら砕けてしまいそうだった。
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