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囃し立てる集団に怒鳴ったって、深冬に刺さる棘がなかったことにはならない。深冬が手を離そうとするのが、指先の動きでわかった。冗談じゃない、と僕は深冬の手を更に強く握った。そのまま歩を進めて、連中のそばを通り過ぎるとき、一番声のでかいひとりが飽きずに深冬を痛めつけようとした。
「おてて繋いで不幸の受け渡しかよ」
僕たちの手を見て、幼稚に揶揄する。
「悔しかったら手ぇ繋いでくれるやつ見つけな」
軽く笑って言ってやると、相手は真っ赤になって聞きとれないくらい汚くなにかを罵った。言葉として理解してやる義理なんてないから、深冬の手を引いてその場を立ち去る。とにかく今は遠ざけたかった。色んなものから、深冬を。
「ふーちゃーん! おかえり!」
帰宅すると、予想通り母が待ち構えていた。玄関でローファーを脱ごうとしていた深冬を抱きしめ、離そうとしない。せめて靴くらいちゃんと脱がせてやれよ、と思いつつも、おかげで畦道の濁った残滓が散らばったのは助かった。
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