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「すずちゃんのおうちの風鈴、好きだな」
「そう?」
そんなに違いなどあるのだろうか、風鈴って。
「うん、音がね、すーっとしてて、綺麗。落ち着く」
瞬きを重ねるほどにレースが編めそうな、繊細に長いまつげ。目を閉じて聞き入る深冬の頬にこまやかな影ができる。デリケートで、傷を抱えても隠す影。深冬の心そのもの。
「すずちゃん、ね、そんな顔しないで」
僕の顔を覗きこむ。耳にかけていた長い髪が一房さらりと落ちるさまが、一筋の涙みたいだと思った。
「わたし、大丈夫だよ。手当て、ありがとう」
ありがとう。いつも深冬は、ありがとうと僕に言う。僕の母と父にも、なにも助けてくれないばかりか、自分を遠くの学校へ追いやった父親にも。
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