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「それで…どうしたんだっけ」
円は小さく呟いた。
考えてみると、今彼等がどうしてるのかは知らないし、いつこの仲良し4人が解散したのかも、いつの間に拓也を『星野くん』なんて他人行儀で呼んでいたのかさえ思い出せなかった。
無理もない、10年以上前の記憶だ。ブラック企業で疲弊し、今日を生きるのに精一杯だった円に過去を振り返る余裕などなかった。古い埃を被った鉄製の箱が錆び付いてそう簡単には開かないように、気づかぬ間に思い出もまた錆び付いてしまっていたのだ。
そうこうしているうちにあたりは少し暗くなってきていた。
そろそろ帰らないとな、と円は実家の方へ足を進める。そこで、電話が鳴った。みると母からの着信だった。
「なに?」
「あっ円?ちょっと帰りにネギ買ってきてくれない?お蕎麦にネギが無いんじゃ物足りないから」
よろしくね〜と言うと、円の話は少しも聞かず母はブチッと電話を切った。
おつかいを頼まれてしまった。家の少し先ににあるスーパーにでも寄ればいいだろう。そう思い円は歩き出した。
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