休暇1日目

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しばらく歩くと、道路沿いにコンビニが見えた。丁度いい、コンビニにもネギくらい売っているだろう。スーパーまで行く手間が省けた、と円は思った。 しかし昔はこんな所にコンビニなんて無かった…そう、ここは駐車場だったはずなのに。 思い出の、とまではいかない記憶だったが、故郷が段々と変わっていく姿に、また胸をチクリと痛ませながらそのコンビニに入った。 「らっしゃあせ〜」 と大学生風の若い金髪の男が気怠そうに挨拶をする。 こら、給料を貰っているんだからちゃんと働け。そう思った後、自分に染み付いた社畜根性に気が付きため息が出そうになった。 ネギ、ネギ…あった。 店の端に追いやられた野菜コーナーの所にネギを見つけ、円はすっと手を伸ばす。すると誰かも同じネギを取ろうと手を伸ばした。 あっと呟きお互いに手を引っ込める。ちらりと相手の姿を見たが、全く知らないおじさんだった。 そのおじさんは、 「ああ、奥さん…いや、どうぞ。へへっ」 と気まずそうに笑い、去っていった。 奥さん…。確かに自分も29歳。そう見えてもおかしくはない。 運命的な再開かも、などと期待しただけに二重に傷つきながら円はネギをレジに持っていった。
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