昭和のナポリタン

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 天然のブラウンがかかったサラサラの髪。大きな瞳の二重瞼。小さな唇に、輪郭がハッキリしていた。  ぼんやりと自分の顔を呆けた顔で見ながら、住まいのマンションを引き払わなければならない現実を考えると、落ち込みが増した。全てが終わった。と、失望しながらも立ち上がる。  私はたった今、解雇を言い渡された。理由は分かっていた。大手F銀行のトレーダーの私は、株で先日大きな損を出した。これはマズいと思ってはいた。それが、あっさり辞めなければならない羽目になってしまうとは。世間はそんなに甘くないってことだ。  若い女性トレーダーは、私だけだった。昔から数字に強かった私は、ずっと勝ち抜いてきたのに、大きな損を出してしまったのだから仕方ない。いつかは、そうなることもあるだろうということは、頭の片隅にあった。 (まぁ、この業界にずっと居られたら奇跡だけど……)
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