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【Side:春川萌々】
「朔、宿題したの、ちゃんとランドセルに入れた?」
玄関で靴を履いている弟を捕まえて問いかけたら「あっ」という顔をされた。
「ごめん、萌々、机に置き忘れた! 取ってきてくれない?」
俺、靴はいちゃったし、と眉根を寄せて付け加えるのへ、「萌々じゃなくてお姉ちゃん!」と溜め息混じりに応じてから、いそいそと子供部屋に向かう。
何だかんだ言って、私、弟に甘すぎるのかも知れない。
「春川さく」と、枠一杯に威風堂々とした文字で記名された算数のプリントを手に玄関へ戻ると、「朔、後ろ向いて?」と声をかける。
くるっと背中を向けた弟のランドセルを開けて、「宿題、連絡袋に入れとくからね?」と念押しして、そこへ二つ折りにしたプリントを滑り込ませた。
「サンキュー萌々!」
行ってきまーす!と玄関を飛び出していく弟に、「気をつけて行くのよ!」と声を掛けてから、頭の中で「だからお姉ちゃんでしょーが!」とぼやいて溜め息を落とす。
何度言っても、9つ年の離れた弟は、私のことを「お姉ちゃん」ではなく「萌々」と名前で呼んでくる。
別にそれが絶対に嫌と言うわけではないけれど、何となく姉としての威厳が!とか思ってしまうのは、10近くも年の離れた弟に、そろそろ背丈で負かされてしまいそうだからかもしれない。
身長150センチ足らずの私は、先の身体測定で145センチを越えたという、同級生のなかでも大きめな弟に、軽く脅威を感じているのです。
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