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「どうでもいいけど、時間。急いでたんじゃねぇのか」
思い出したように言えば、萌々が「あー!」と声を上げる。
こういうとき、どこぞの王子様なら颯爽と車でも出してきて、「送ってあげるよ」なんて爽やかに微笑むんだろうが、あいにく俺がそれをやるとコントにしかならない上にまず一発で免許取り消しになる。
だって俺はついさっきまで飲んでたからな。
いや、仕事だけど。
「気をつけていけよ」
どこか名残惜しそうながらも、「じゃあ、またね!」と手を振る萌々に軽く片手を挙げて、俺は苦笑混じりに独りごちる。
「……つーかうり坊とか久々に口にしたわ」
まぁでも、ぴったりだな。
特に反論もされなかったし。
あっという間に小さくなっていく背中に目を細めつつ、こみ上げた笑いに微かに肩を揺らす。
その姿が完全に見えなくなってから、俺はこみ上げた欠伸と共に一度大きく伸びをした。
***
久々に実家に戻った俺は、持っていた合鍵が使えることにほっとしながら中に入った。
「あら、隆之介。珍しいわね」
玄関で靴を脱いでいると、無駄に広いホールに少女みたいな高めの声が響いた。
少女みたいとは言え、相手はまぁ、俺から見ればれっきとした中年だ。もうすぐ26になる俺の母親なんだから。
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