16.隆之介の秘密

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【side:如月隆之介】  兄貴の嫁の名前は久遠寺(くおんじ)美央(みお)というらしい。  俺はまったく面識がなく、式の前に開かれた親族のみの顔合わせで初めてその姿を目にしたわけだが、なるほど、確かにモデルと見まがうようなきれいな女性だった。  ……まぁ、どのみち興味ねぇけどな。 (興味あるっつったら……むしろ)  その弟の方かな。柚弦(ゆづる)とかいう……。  事前の顔合わせでは気付かなかったけど、結婚式の時に思い出した。  彼は結局式には来られなかった、萌々(もも)の男だった。  あの日、レストラン(アリア)で萌々とアオハルしてた――。 (つーか、世間ってマジ狭いな)  ベッドの端に座っていた俺は、込み上げた笑いに小さく肩を揺らす。  気怠げに髪をかき上げながら、サイドテーブルに置いていたミネラルウォーターのペットボトルを軽く(あお)ると、 「ん……(りゅう)、ちゃん?」  その背後で上掛けが小さく(うごめ)き、(かす)れた声が聞こえてきた。 「あぁ、おはよ」  空調の効いた部屋の中。俺は下着一枚しか身に着けていない。  布団の中にいる相手も同じだ。  振り返った俺の手から、不意打ちのようにボトルが抜かれる。
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