16.隆之介の秘密

3/5
前へ
/137ページ
次へ
 それをひと口飲んだ後、当たり前みたいに俺との距離を詰め、 「おはよ――、ん……」  ちゅ、と触れ合っただけの唇を、キヨが笑顔でぺろりと舐めた。  深夜を回った俺の勤め先()には、そういう指向の客が集まる傾向がある。  女性なら女性、男性なら男性を連れて、出会い目的なら一人きりで、カウンター席に座る。  そんな中、いつだったか閉店間際の、既に客なんてほとんどいない店にふらりとやってきて、カウンター席に一人で座ったのがキヨだった。  そうして当然のように酔い潰れたキヨを、仕方なく部屋に連れ帰ったのがこの関係(これ)の始まりだ。  かと言って、俺たちは別に付き合っているわけじゃない。  言ってしまえば身体の関係のある友人だ。  ……まぁ、俺の方はある意味特別な存在だと思ってはいるけどな。  キヨがどうかは知らないが、少なくとも俺は今、以外とは寝ていないのだから。 「もうチェックアウトの時間? ここ、9時だっけ?」  欠伸(あくび)をかみ殺しながらいうキヨの手から、ペットボトルを取り返す。  それを再度ひと口嚥下してから、傍らに置いていた携帯で時刻を確認した。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加