16.隆之介の秘密

5/5
前へ
/137ページ
次へ
 キヨと二人でホテルを出てきて、間もなく――キヨはすがるように俺の腕に自分のそれを絡め、機嫌良さそうに笑みを深めた。  まぁ、一般的な会社員ならすでに職場に着いているだろう平日の9時頃(こんな時間)に、元々人気(ひとけ)なんて多くはないし、そもそも知らないやつにどう思われようとそんなのは今更どうでもいい。キヨも特に気にしていないらしいし。  ちなみにアパレル系で働いているキヨは今日は昼からのシフトらしく、まだ時間があるからと、アリアで何か食べていこうということになった。  ……とはいえ、 「えっ……(りゅう)、ちゃん……?」  さすがにそれも相手によるらしい。  路地裏から出て、大通りを歩き始めたところで、どこからか覚えのある声に名を呼ばれた。 「?」  俺はキヨと共にその方向へと顔を向けた。 「……萌々(もも)」  会社員は少なくても、学生はどうだろう。  その時の俺は、そこまで考えていなかった。  誰にどう思われようとどうでもいいと思っていたが、その相手が萌々となるとちょっと面倒だと思ってしまった。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

118人が本棚に入れています
本棚に追加