02.如月隆之介

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 こんな母親だけれど、実はちょっと身体が弱い。  すぐに命がどうこうってわけじゃないけど、体質なのかやたら疲れやすかったり、寝込んだりすることも少なくなかった。  特にそう、〝季節の変わり目〟は。 「お茶入れておくから、用が済んだらリビングに来なさいね」 「親父とか……誰もしばらく帰ってこねぇんだろうな」 「当然でしょ」 「……だったら付き合う」  俺が頷くと、いっそう楽しそうに笑みを浮かべて、彼女はキッチンへと消えた。 * *  平屋というわけではないが、母さんの希望で家族が使う部屋は全て一階にある。しかも、一旦リビングを通らないとそこにはいけない間取り。二階は主にゲストルーム。昔は複数の使用人や守衛もいたらしいが、いまは優秀なセキュリティシステムがあるからな。ここにいるのは家族以外では平日の昼前にやってくるお手伝いさんが一人だけ。 「……とりあえず二着でいいか」  自室のウォークインクローゼットの中、俺が手に取ったのは太ももまで深くスリットの入った、濃い紫を基調としたチャイナドレス。そして次に手を伸ばしたのは、シンプルなホルターネックのカシュクールワンピースだった。こちらはサックスブルー一色。  それらを軽く畳んで大きな紙袋にいれると、それを肩にひっかけさっさと部屋を後にする。
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