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「早かったわね」
「まぁ、大体決めてたし」
リビングに戻ると、嗅ぎ慣れたコーヒーの香りが漂っていた。
真っ白なテーブルの上には、それとは別に焼き菓子が用意されている。昔から俺が好んで食べている店のものだ。
「どれにしたの?」
いつもの席に座った俺の前に、ハイブランドのカップとソーサー――カップの中身はブラックコーヒー――を置きながら、母親が足元に置いてある紙袋を覗き込んでくる。
「……いい趣味ね」
隙間から見ただけで、それがどんなものか分かったらしい。彼女はふふ、とどこか含んだような微笑みを浮かべた。
「いい趣味って……片方は母さんが選んだやつだろ」
「だからいい趣味ねって言ったのよ」
俺にぴったりサイズのドレスとワンピース。
そのワンピースの方を選んだのが母さんだ。
「なんだかんだ言いながら、私が選んだのを着てくれる隆之介が好きよ」
言うなり、母さんはふざけるようにウィンクをした。
ばちっと飛んだハートが俺にぶつかり、カップの中に落ちた気がした。
「――あ、そういえばほら。数軒先の萌々ちゃん。覚えてる?」
「あぁ、萌々がなに?」
「大学、特待生で受かったんですって」
「へえ、そうなんだ」
「すごいわよねぇ」
向かいの席に座った母さんが、自分のカップを持ち上げたまま、ほう、と息を吐く。
「……そうだな」
俺は大好きないちご味のフィナンシェを口に放り込みながら、適当に相槌を打った。
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