03.満員電車

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「あ、あの……」  さっきより格段にパーソナルスペースが確保できた気がして。それは裏を返せば久遠寺(くおんじ)くんが私のために頑張って空間を作ってくれているからに他ならないわけで。  さ、さすがにこれは久遠寺くんに申し訳ない!  私みたいな女子力皆無なウリ坊のために、女子達みんなの憧れの的な王子様に身体を張っていただくとか! 「ごめんね。迷惑かもしれないけど、僕ももうこれ以上動けなくて。少しだけ我慢してくれる?」  少し屈むようにして私の耳もとに唇を近づけると、久遠寺くんが申し訳なさそうにそう言ってきて。  見た目同様柔らかくて……その実しっかり男性なんだと思わせられる優しい声音が耳朶を打つ。  いやいやいや!  違うの、違うの!  私が慌てちゃってるのはそういうことではなく! 「わ、ワタシのホーこそっ、こンなっ。ギャクに申し訳な、いねっス」  間近に感じる久遠寺くんは、さすがにみんながキャーキャー言うだけあって、物凄く素敵で。  気がつけば、私、自分でも何を言ってるの?って思うようなカタコトでしどろもどろな日本語で応対してしまっていた。本当、アナタ、外国の方ですか?状態。  そもそも「申し訳ないねっす」って何! 「申し訳ないです」って言いたかったのに。  と、直ぐ近くからクスクスと微かな笑い声が聞こえてきて、私は恐る恐る声の主――久遠寺くんを見上げた。
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