04.久遠寺柚弦

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「あ……はい。実は私も知ってます。神木さん、ですよね」 「そうそう、俺、神木(かみき)楓馬(ふうま)! ……って、敬語とかやめてよ、同級生なのに」 「え、えっと……じゃあ、はい、分かりま……分かっ、た。……神木くん」  しかも、確認のためだとは分かるけれど、噛み締めるみたいに楓馬の名前を口にする。  いやいや、ちょっと待ってよ。  知ってるけど、楓馬がもともと人懐こい性格だってことは。人の懐に飛び込むのが上手いってことも、確かに知ってるけどさ。  だけど……だとしても、だよ?! 「うんうん。じゃあ、学校まで一緒にいこー! 萌々(もも)ちゃん!」 (萌々ちゃん!?)  それはない!  それはないだろ!  そこまで何とか黙って二人のやりとりを見守っていた僕だったけれど、突然のその呼び方チェンジにはさすがに唖然としてしまう。  いや、いやいやいや……。それはさすがにないでしょ。  僕が今までどんな思いで〝春川さん〟って呼んできたと思ってんの。  そりゃ、心の中ではたまに〝萌々ちゃん〟って呼んでたけどさ……。 「ん? どした、ゆづ?」  思わず楓馬の顔をガン見していたら、それに気付いた楓馬が僕の方を見た。  かち合った大きめの瞳が、心底不思議そうに俺を見返してくる。 「……いや、何でもない」  僕は微笑みを湛えたまま、ふるりと首を振った。  そうだった。  こんなにも人との距離を埋めるのが上手いのに、楓馬はきわめて鈍感なのだ。  結果として、春川さんと学校まで一緒に歩けることになった、そのこと自体は素直に嬉しい。  嬉しいし、そこは楓馬に感謝したいところだけれど、 (っていうか、ちっちゃい仲間ってなんだよ……)  僕は妙に会話が弾んでいる(ように見える)二人を相手に、しばらくはただ微笑むことしかできなかった。
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