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【side:如月隆之介】
朝方店を閉めた後は、基本まっすぐ近所のマンションへと帰る。
面倒なのでいちいち着替えはしない。
自宅までは歩いて数分の距離だし、今更店の周辺――歓楽街――ではそう珍しくもないからだ。
まぁ、さすがにそんな〝制服〟姿のままコンビニに入ると、時々奇異的な視線を浴びることもあるけれど、それだってもうどうでもいいと思える域に達している。特に気にならない。逆ににっこり笑って「おはよう」だなんて言えるくらいには慣れていた。
「……何が嫁だよ」
メゾネットタイプの部屋は、二階に寝室と風呂がある。
シャワーを済ませた俺はベッドの上に寝転がり、壁に掛けたままにしていた一着のワンピースに目を遣った。
それを取りに行ったとき、母親に言われたのだ。
萌々をうちの嫁にとかなんとか……。いや、冗談じゃねぇけど。
「っていうか、また行かなきゃなんねぇとか……面倒くせ」
ワンピースには、よく見ないとわからないが、糸状のベルトループがついている。
けれども、そこに通されるはずの共布のベルトがないのだ。……実家のクローゼットに忘れたに違いなかった。
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