06.アオハル?

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 目的地に着くと、店の駐車場にそれを止め、ジャケットの前を開けながら入り口付近へと歩いて行く。視線の先には、見知った人物が立っていた。 「(きよ)」  声をかけると、弾かれたように顔を上げた相手から、待ちかねたみたいな声が返ってくる。 「遅いよ」  少し高めのハスキーな声。 「時間通りだろ」  俺は軽く整えるように前髪を搔き上げながら、笑みを滲ませた。  そこに立っていたのは、俺より10センチ程度背の低い一人の男。少し癖のある長めの髪を無造作にセットした、中性的な顔立ちをした彼――茜清登(あかねきよと)は、「何かおごってよね」と僅かに口を尖らせ、店の中を指さした。  *  *  昼食がまだだった俺は軽く食事をし、食後のコーヒーを待つ傍ら、取り出したスマホに目を落とす。ほぼ毎日チェックしている、写真や画像に特化したSNSを覗くためだ。そこには俺が働く店のアカウントも登録されている。 「……ねぇ、あれ見て」 「?」 「あれってアオハル?」  けれども、目的の画面が開いたところで、向かい席に座っていた清に潜めた声で水を向けられた。  清は煙草を吸うので、俺たちが座っているのは喫煙席だ。  そこから清が目線で示したのは、壁際に位置するテーブル席。禁煙席の中でも、喫煙席から一番遠い席の一つだった。 「……いや、こっからは見えねぇし」
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