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うち――春川家にはお母さんがいない。
もっというと、弟の朔は私とは半分しか血が繋がっていない異母姉弟――。
私の本当のお母さんは私が小学低学年の頃に、事故で他界したから。
私も物凄く悲しかったけど、私以上に伴侶を亡くしてボロボロになっていたお父さんを見て、この人を支えなくちゃ。お父さんまでいなくなっちゃう!って子供心に物凄く怖くなって。
本当はお母さんがいなくなったこと、すっごくすっごく寂しくて泣きたかったけど……お父さんが子供みたいにわんわん泣くから。私、お父さんの前では泣けなかったの。
そんな私が唯一弱音を吐いて泣けたのが、幼なじみのお兄ちゃん――如月隆之介と一緒にいた時。
「泣きたい時は素直に泣けよ。可愛くねぇな」
泣くのを必死に我慢していた私に、隆ちゃんがそう言ってからかってきたのは、ある意味彼なりの優しさだったんだと思う。
「泣けねぇなら泣かせてやろうか。俺が」
意地悪く笑われて、私は初めてお母さんを呼びながら大泣きした。
そんな私の横、隆ちゃんは何も言わずにずっとそばにいてくれて――。
別に抱きしめてくれたとか慰めてくれたとかそういう気の利いた行動があったわけではないのだけれど、誰かのそばで泣いてもいいんだって思える事が、その時の私にはすごくすごく有難かった。
思えば、あの時からずっと、私は隆ちゃんのことが好きなんだと思う。
意地悪で口は悪いけれど、どこか憎めない人。
いつの間にか、どんなに邪険にされても全て隆ちゃんの優しさなんじゃないかと変なフィルターが掛かってしまうほどに、私は彼を慕うようになっていた。
子供の頃の刷り込みってホント怖いっ!
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