118人が本棚に入れています
本棚に追加
「お待たせしました」
食後だからと、僕はコーヒーゼリー、春川さんは季節のケーキをそれぞれドリンクとセットで頼んでいた。それが届いたのだ。一緒に選んでいた温かい紅茶と共に。
「……では、また何かありましたらお呼びつけください」
にこりと妙にあどけない笑顔を残し、成人男性にしては少しばかり背の低い店員が去って行く。まぁ、それでも楓馬よりは高そうだったけど。
「ご、ごめんね。久遠寺くん、実は……」
「あ、いや」
天板に並べられたオーダー品に目を戻すと、待っていたみたいに春川さんがおずおずと顔を上げる。継がれた言葉に、僕は慌てて片手を上げて、「待って」と手のひらを春川さんの方へと向けて見せた。
「ち、違うの、さっきのは、えっと……」
「春川さん。僕いま、彼女いないよ」
「え……?」
けれども、そうして彼女が黙ってくれたのは一瞬で、次にはまた口を開こうとする春川さんに、僕はかぶせるように言った。
「でも僕、彼女はいないけど好きな人はいて」
「え……っ!」
目の前で、春川さんの大きな目が更に大きく見開かれた。
僕は密やかに深呼吸をすると、
「今、目の前にいる人」
努めて優しい笑顔でそう告げた。
……今にも口から飛び出そうだった心臓を無理矢理飲み込んで。
最初のコメントを投稿しよう!