08.スイーツセット

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「お待たせしました」  食後だからと、僕はコーヒーゼリー、春川さんは季節のケーキをそれぞれドリンクとセットで頼んでいた。それが届いたのだ。一緒に選んでいた温かい紅茶と共に。 「……では、また何かありましたらお呼びつけください」  にこりと妙にあどけない笑顔を残し、成人男性にしては少しばかり背の低い店員が去って行く。まぁ、それでも楓馬よりは高そうだったけど。 「ご、ごめんね。久遠寺くん、実は……」 「あ、いや」  天板に並べられたオーダー品に目を戻すと、待っていたみたいに春川さんがおずおずと顔を上げる。継がれた言葉に、僕は慌てて片手を上げて、「待って」と手のひらを春川さんの方へと向けて見せた。 「ち、違うの、さっきのは、えっと……」 「春川さん。僕いま、彼女いないよ」 「え……?」  けれども、そうして彼女が黙ってくれたのは一瞬で、次にはまた口を開こうとする春川さんに、僕はかぶせるように言った。 「でも僕、彼女はいないけど好きな人はいて」 「え……っ!」  目の前で、春川さんの大きな目が更に大きく見開かれた。  僕は密やかに深呼吸をすると、 「今、目の前にいる人」  努めて優しい笑顔でそう告げた。  ……今にも口から飛び出そうだった心臓を無理矢理飲み込んで。
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